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カグの樹の脚

つばめ綺譚社の紺堂カヤの小説『カグの樹の脚』を連載形式で順次公開してゆきます。

連載第九回 トルネリコ

トルネリコが近づくにつれて、周囲の様子に変化が見られた。図書館で感じた、誰が何をしていようが気に留める者などいないというような、都市気質の雰囲気が薄れ、代わりに排他的な空気が濃厚になってきた。端的に言うと、住民たちの好奇の目を感じるように…

連載第八回 調査開始

義足ジャンパーだというこの小柄な少女をどう扱って良いか、エルマーにはわからなかった。少女、にしか見えぬが同い年だという彼女は、見た目に反してしっかりとした物言いをする上、エルマーの差別的な発言にも怯まず、また激怒することもなく理性的な反論…

連載第七回 ターミナル

『第98球における調査任務 ホウル国北東地方の基本情報更新のため、統治状況を中心に再調査のこと。任務着任は本日より三日以内に』 任務内容を3回読んでから、モモは通信端末に第98球の基本情報を呼び出した。これが、モモたちの調査任務の結果、書き…

連載第六回 パートナー

社長室へ出向くべき時間にはまだ余裕があったため、モモは食事をするべく社屋を出て繁華街へ向かった。チキンシチューの味が気に入って、よく足を向けるようになった『小鹿亭』に入る。店内は、真っ昼間だというのに酒を煽って盛り上がる面々で賑わっていた…

連載第五回 モモ、20歳。

母の顔が、思い出せない。 父の顔も、思い出せない。 液体に半身をひたして手を伸べる母の顔は、長く黒い髪がうねうねと覆い隠してしまっていたし、父は後頭部をこちらへ向けていた。 寒かった。 こめかみだけが温かく、鼻がツン、と痛んで、自分が泣いてい…

連載第四回 友だち

丘は、半分ほど上がると、木々が深く林になっているところと、開けて原っぱが広がっているところに分かれる。ペシェとメロはいつも、原っぱの方で足を止めていた。メロはよく、ここで写生をする。 「じゃあ、あっちの、木が多い方にはあまり行かないんだ?」…

連載第三回 ドーナツとネクターと

近道と言ったのは嘘ではないけれど、脇道を選んだのには別の理由もあった。丘に向かうにはペシェが通う学校を越えて行かなければならない。通学路になっている大きな道の周囲は、同級生たちに出会う確率が高かった。できるかぎり、遭遇は避けたい。 どんなに…

連載第二回 透明な絵具

翌日の朝8時ちょうどに、時計広場へ行くと、モモはすでにやって来ていた。ペシェの顔を見るとちょっと眉を動かしたが、何も言わなかった。昨日の、親しげな感じとは随分違う。 「おはよう……」 「おはよう」 挨拶は返してくれたので一応は安心して、ペシェは…

連載第一回 空からおりてきた少女

吸込青(すいこみあお)、という色がある。 真夏の昼過ぎ、いちばん日差しの強い時間の、入道雲のむこうに広がる空の色である。ほかの色という色を、すべて吸い込んでしまった深い、深い青は、空を見上げる者の視線を捕らえる。 古代よりこの色は人々の心を…

『カグの樹の脚』~世界間を跳ぼうプロジェクト~

「ジャンパー」という、あらゆる世界を旅して物品や情報を集める仕事をする者たちがいる。モモは、そうしたジャンパーのひとりである。世界の間を跳びながら、彼女には探したいものがあった……。 紺堂カヤのファンタジー小説『カグの樹の脚』。 2015年、つば…