カグの樹の脚

つばめ綺譚社の紺堂カヤの小説『カグの樹の脚』を連載形式で順次公開してゆきます。

2016-12-01から1ヶ月間の記事一覧

連載第五回 モモ、20歳。

母の顔が、思い出せない。 父の顔も、思い出せない。 液体に半身をひたして手を伸べる母の顔は、長く黒い髪がうねうねと覆い隠してしまっていたし、父は後頭部をこちらへ向けていた。 寒かった。 こめかみだけが温かく、鼻がツン、と痛んで、自分が泣いてい…

連載第四回 友だち

丘は、半分ほど上がると、木々が深く林になっているところと、開けて原っぱが広がっているところに分かれる。ペシェとメロはいつも、原っぱの方で足を止めていた。メロはよく、ここで写生をする。 「じゃあ、あっちの、木が多い方にはあまり行かないんだ?」…